事業性評価融資と予見が難しい未来への対応力

事業性評価融資と予見が難しい未来への対応力

 数年前に金融機関様と事業者様からのご依頼で、大型の設備投資に伴う新規融資に係る事業計画策定支援をしたことがあります。その融資で購入した設備は、試作開発中でこれから始まる数億円規模の新規取引拡大のためのものでした。現在も継続的に実行支援している立場から、その時の、経験も踏まえながら思ったことを書いてみます。

事業性評価融資で重要な視点

H28年中小企業白書のデータから筆者がグラフ作成

 平成28年の中小企業白書では、融資をする際に、金融機関が評価する項目についての記事が載っています。主な評価項目としては、①事業の安定性・成長性、②財務内容、③代表者の経営能力や人間性、④会社や経営者の資産余力と続きます。いずれも、返済可能かどうかの判定をするのに大切な内容です。近年、担保保証によらない事業性評価融資が求められるようになって久しくなってきています。そういった事業性評価による融資の場面でも①~④はますます重要な要素になると思います。他にも⑤として技術力・開発力・その他知的資産も重要な要素です。

難しいのは未来の環境変化を予見できないこと

そして、上記①~④を内容により分けるとすると、②と④は目に見えやすく分かりやすいもの、①と③については見えにくく分かりにくいという分け方ができると思います。特に、①事業の安定性・成長性と言っても、未来は不確実であり、予見することができません。事前にいかに用意周到に準備して計画し、事業計画の数値目標を多面的にチェックしたとしても、新しい取り組みを始める場合は、不確実な未来という避けては通れないリスクが眼前に横たわります。例えば、私の独立当初の7年前には、中小企業が採用に困るという話をまだ聞きませんでした。「募集をすればすぐに採用できた」という話を数年前までは聞きました。ところが、この数年間で急速に人手不足が表面化して、今後の人口減少と相まって、中小企業全体の継続的な経営課題になってきています。「こうなることはよくよく考えれば予測できた」という人はいるかもしれません。しかし、この環境変化を自分事として予測をしていた人は数少ないのではないでしょうか?

人は不確実な未来の環境変化を予見しきることはできません。また、今が良ければその状態がずっと続けばよいと心の中で期待している部分があります。その為、放っておいて何も行わないと外部の環境変化の速度に対して、対応が遅れて付いていけなくなります。

未来の環境変化への対応力

では、環境変化に付いていくためにはどうすればよいのでしょうか?環境が変化することを織り込んで、即座に動けるように、あらかじめ対応する為の具体的な取り組みが必要になります。以下に必要な取り組みについて書いていきます。

適時の現状把握能力や経営管理の仕組み

まずは、月次試算表に代表されるように数字で定期的に事業の成績を評価できる材料を作成します。また、事業計画があればその計画数値と実績を月次で比較して、関係者で「なぜその差異が生じるのか?」共有し検討する予実管理も必要になるでしょう。数値の差異は重要な情報です。その差異が生じた要因を単価と数量、発生業務内容ごとに分けながら把握していくことにより、差異の発生要因が明確になってきます。月次など定期的に分析検討することにより、早期での対応ができ、リカバリーしやすくなります。定期的な経営会議なども有効です。

未来を予測し、新規受注や収支を創ることができる能力や仕組み

未来を予測するために予測資金繰り表の作成をお勧めします。顧客レベルで売上高を分けながら、支出を変動的要素と固定的な要素に分けて、過去の回転期間等の実績の割合などを用いることにより、現状のビジネスモデルにおける将来予測がある程度できるようになります。そして、それを見て、今後の資金状況を見ながら、必要に応じて新しい取り組みを積極的に行い、既存深耕、新規開拓などにより受注を作るなど、収支を創ることができると理想的です。

課題設定力とやり抜く行動力が環境変化対応力の源泉

上記2つの視点の仕組みが有効に機能する場合として、経営者様自らが、①自社の強みを認識したうえで自分や会社が将来どうしたいか、どうなりたいかという目標や課題を、現実的な数値を踏まえて設定する力や、②設定した課題を解決できるよう絶対やり抜くという気持ちに基づいた行動力が見える場合ではないかと思います。私も現場で、経営者の方のそういったお姿を拝見することがあります。そういった、経営者の皆様の気迫を間近で拝見しながら思うことは、それこそが、不確実な未来を切り開く対応力の源泉になっているということです。冒頭で述べた、③代表者の経営能力や人間性に当たり、事業性評価融資において重要であるものの見えにくい要素なのかもしれません。

私もそういった気力を持ちながら、事業計画の策定支援や経営全体の仕組み構築の支援という側面から、見えにくい内容を少しでも見える化したいと思います。そして、お互いに目線が合う経営者の方々が、予見が難しい未来に対応する助けになれるように、自ら課題設定しながら進んでいきたいと考えています。

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