有効求人倍率から中小企業の今後の人材採用と戦略を考える
先日、支援先の経営会議の場でお話しした有効求人倍率を用いた今後の人材採用について、その会社の経営陣や幹部と方向性を考えたのですが、その情報を改めて整理して、今後の中小企業の採用について考えてみました。
既に取り組まれている会社様からすれば、何をいまさらと言われると思いますが、支援現場で重要性を改めて感じたので、支援者として改めて考えてみました。
有効求人倍率とその推移を見て
有効求人倍率とは「月間有効求人数」を「月間有効求職者数」で除して得た数値(厚生労働省ホームページから)です。求人数を求職者数で除していますので、これが1を上回っていると求人数の方が求職者数よりも多いということ、反対に1を下回っていれば、求人数の方が求職者数よりも少ないということです。
その為、1を下回っていると企業は採用を行いやすいということになります。
過去50年の有効求人倍率の推移
過去50年の有効求人倍率の推移で見ていくと、高度経済成長期末期の1973年に過去最高の有効求人倍率を記録した後、求職者の数が求人の数を上回り有効求人倍率が1倍を割る時期が続きました。そして、1990年代前半のバブル期に有効求人倍率は急伸し1.5倍程度まで伸びたものの、その後、バブルがはじけるとリーマンショックの直前のITバブルの時期に1倍をかろうじて超えたもののずっと1倍を割っていました。
その後、アベノミクスなどで企業業績も好調となり、それに伴う有効求人数の急激な増加に対して、求職者数は伸びず2018年の有効求人倍率は1.6倍を超えて、1973年以来の高水準となっていました。
支援の現場でもここ数年、今までは採用できないことはなかったのに、採用できなくなってきたという話を聞くようになりました。
ここ数年の高水準な有効求人倍率とその内訳
ここ数年は急激に有効求人倍率が上昇し、2018年には1.6倍を超えていました。ただし有効求人倍率は伸びていたものの、その内訳はパート社員の求人の増加によるものでした。
正社員等パート社員以外の有効求人倍率も伸びていますが、パートタイマーほどは伸びていませんでした。パートタイマーが適した労働は多かったものの、給与が高い社員を雇うことは比較的に行われてこなかったようです。
しかし、コロナショックでパートタイマー以外とパートタイマーの有効求人倍率に差が無くなってきました。これは、コロナショックに巻き込まれて需要減少したことの影響で過剰に膨らんでいた求人倍率がしぼんできて適正水準になってきていることもあると思います。また、真っ先にパート社員の雇用が減少したことの影響かもしれません。
コロナショックでは過去のショック時と比較して有効求人倍率は落ち込んでいない(思ったほど雇用しやすくなっていない)
ここまで見てきて、私が注目したのが、有効求人倍率はこの新型コロナウイルス渦の中でも1倍を割っていないことです。長期推移を図表で追いかけていると特に目を引きます。
これは、今回のコロナショック下では、政府のコロナ支援策である雇用調整助成金などの効果も有り、過去の経済ショック時と比較して雇用の維持が図れている可能性もあります。
また、それに加えて労働力人口の減少があると思います。現場ではここ最近は、コロナショック前の数年間に比べると、募集しても人が来るようになったものの、若年層など活力ある労働力人口が減少し、そういった年齢層の社員をますます雇いにくくなっているという話を聞きます。
労働力人口減少が有効求人倍率を押し上げていて、過去の人口増加局面から、2008年をピークに人口減少局面に突入した中で労働力人口減少が起きていることを示唆していると容易に推測できます。
数値で見るインパクトの大きさ
かねてからそういった情報をよく聞くようになっていたので、情報自体は目新しい情報ではありません。
しかし、こうやって数値で見てみるとあらためて衝撃の大きさを感じます。
経済ショック下でも企業をはじめとした雇用主が雇用を行いやすい状況になっていないことを表しているように見えたからです。
今後の予測と対応策(先を見据えた対応の必要性)
今後の有効求人倍率が高止まりして1倍を超える状態が当たり前になるかもしれません。
そうして、中小企業の採用はますます工夫が求められようになると思います。
従業員が定着するには会社の魅力を高めるとともに、それだけでは難しい場合は、今から時間をかけて事業構造変革の必要があると思います。
先を見据えた動きと創意工夫の重要性が増してくると思います。
今まで当たり前だった採用戦略の見直しや会社の魅力の向上
まず最初に考えるのは、今後は、今まで当たり前だった採用戦略を見直して会社の魅力の向上を進めていく必要があります。今までやってこなかったことを行うとともに、付加価値を高めることにもチャレンジしていくことが大切です。
また、長い目で見た事業構造の変革を目指し、労働力人口減少にも耐えられる会社の体制を目指していくことが必要かもしれません。
会社の事業構造を人員不足でも回るように変革していく
体制の構築という視点からは、それができる業種ならば、人員をかけずに稼ぐ事業構造を考えていく必要があると思っています。
その為には新規設備の導入による生産性向上ができれば良いですが、それも図りながら、それができない場合は稼働率の低い設備の有効活用による収益化なども検討していくことが必要になるかもしれません。
また、技能人材の獲得などをM&Aを用いて行うことも有効な局面があるかもしれません。
また、付加価値を高める為の顧客ニーズを捉えた取り組みをするために、社外のネットワークを活用しながらファブレス化した事業を組み込むことも事業構造転換には必要になってくるかもしれません。(そういった取り組みを進めている支援先もあります。)
いずれにしてもこれからは外部環境変化に敏感になり、先を見据えた取り組みがますます重要になってきます。私もそういった視点で今後も伴走型支援を心掛けていきたいと思っています。
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